大阪・梅田 正午
雑踏の中に立つ、ズゴゴ人間体。
どこからか聞こえてくる、正午の時報。
ズゴゴ人間体、大きく深呼吸すると、怪人体に変化する。
頭部に鋭利で長い角を持つ、イッカク種怪人である。
遠目に「あれ何?」という感じで振り返る者もいる。
が、足をとめる者はなく、周囲の誰もが状況を飲み込めていない。
指差してあざ笑う者すらいる。
静かに、あたりを見まわすズゴゴ。
関西国際空港 同時刻
一条、 気配に振り返り、早足で歩き始める。
一条の歩く前方、女の背中。
女、厚いコートに身を包み、目深に帽子をかぶっている。
女、足を速める。
人ごみを掻き分け進む一条。
女の正面から、スーツの男。
スーツの男に合図を送る一条。
スーツの男、女とすれ違い、一条の行く手を阻む。
スーツの男をやり過ごそうとする一条。
スーツの男(公安局捜査官・柿崎)、一条の腕をつかむ。
柿崎「単独行動は禁じられている」
一条「(舌打ち)顔を見たか?」
柿崎「ん?(女の去った方角を振り返る)」
もはや女の姿は無い。
× ×
空港前ロータリーに黒塗りのセダン車。
車に乗り込む女。
車内、運転席と後部座席に男が1人ずつ。
女、帽子を脱ぐ。額に、白い、バラのタトゥ。
バルバ、腕時計に目を落とす。
ゆっくりと走り出す車。
チベット自治区・ミャンマー国境付近 現地時間11:03a.m.
人民軍キャンプ。
激しい砂塵と、ヘリのホバリング音。
トラックの荷台から降ろされ、連行される雄介。
雄介、そのままヘリに乗せられる。
間もなく離陸するヘリ。
ヘリ内には、人民軍兵士達に混じって、雄介。
JR大阪駅前 12:38 p.m.
阪急百貨店前の雑踏。
激しいサイレン音。
振り返る人々。
救急車、パトカーが次々に走り去る。
雑踏の中に、ズゴゴ人間体。無表情である。
× ×
大阪駅前南交差点―。
血の海に染まっている。
いくつの遺体があるのかすら、わからない。
音もなく回転する赤色灯。
警官、消防隊員達、言葉もなく、立ち尽くしている。
東京都・新宿区 1:17 p.m.
アルタビジョン前。
足を止める人々。
女性アナウンサー「番組の途中ですが、ここでニュースをお届けします。本日正午過ぎ、大阪駅前で、通り魔殺人…えー、連続通り魔事件が発生し、少なくとも30名以上の死傷者が出た模様です。繰り返します―」
栃木県・宇都宮市内
アパートの一室に並んだ長机。
アジア系の青年男女数名が日本語の教科書を広げている。
教鞭をとっている京子。
京子「『ここから、一番近い郵便局は、どこですか?』はい」
『ココカラ、一番近イ郵便局ハ、ドコデスカ?』と唱和する男女。
ドアが荒々しく開き、アジア系青年・カンが飛び込んで来る。
カン「先生!テ、テレビ!テレビ!! ニュース!!」
京子「…」
ニュース画面
アナウンサー「本日正午過ぎ、大阪駅前で通り魔による大量殺人事件が発生し、少なくとも30名以上の死傷者が出た模様です。なお、犯人は現在も逃走中とみられ、大阪府警は周辺の住民、企業に対し避難勧告を発令するとともに、大阪駅、梅田駅周辺の交通を規制しております。犯人の特徴については情報が錯綜しており―」
新宿区・市ヶ谷 防衛庁
受話器を握る南三佐。
南「―だから、プレスの情報はいい。大阪府警が情報を出さんと言うのならそれも構わん。局員を現地に派遣しろと言っている! 今、制服組が動く訳にいかんだろ!!」
無言で腕組する稲田一佐。
テレビを見つめている、陸上幕僚長・苗場(53)。
テレビから流れるニュース。
アナウンサーの声「本日正午過ぎ、大阪駅前で通り魔による大量殺人事件が発生し、最新の情報では…死傷者は70名以上とみられます。犯人は現在も逃走中で、大阪市内の交通は封鎖されております。えー…(声に詰まる)み、未確認…えー、未確認生命体が、目撃されたとの情報が―」
稲田「…また、模倣犯じゃないのか?」
南、受話器を叩きつけるように置く。
南「銃器も使わず、30分足らずで、79人を殺傷できる模倣犯、ですか?」
稲田「…」
南「即応できなければ、また、万単位の死者を出すことになります」
アナウンサーの声「犯人は槍のような凶器を使用していたと言う目撃情報もあり―」
苗場「長官に上申できるよう、正確な情報が欲しい。今夜の臨時閣議に間に合わせてくれ(席を立つ)」
大阪市内
騒然としている。
徒歩で避難する人々。それに逆行する野次馬。
一台一台検問を行う警察官。
動かない地下鉄。
新幹線待合所にあふれる人々。「全線不通」の表示。
関西国際空港
空港ロビー、テレビニュースに群がる群衆。
一条、拳を握り締めている。
柿崎、一条の腕をつかんでいる。
柿崎「我々の標的はB−1号ではない」
一条「しかし!一体何のための確保ですか!?」
柿崎「国民を守るためだ」
一条「…(柿崎を睨んでしまう)」
無線の声「撤収せよ。別命あるまで待機」
一条「撤収?」
無線の声「関空も封鎖だ。発着便は当分ない」
柿崎「…了解…」
吹田市・万博記念公園
人影はない。
かつては万国旗がなびいていた幾つものポールが、階段沿いに並び立っている。
その奥には、エキスポタワー。
タワーを背に、階段を下ってくるズゴゴ人間体。
階段を上ってくるバルバ。
バルバの後ろから、屈強の男(ヴォ・ズガギ・ダ)と、スキンヘッドの男(ヴォ・ゲギド・ギ)。
ズゴゴ「〔クウガは、まだか〕」
バルバ「〔やがて、来る〕」
ゲギド「〔それまでに、何人のリントを殺せるかな?〕」
ズゴゴ「〔ゲゲルをしている訳ではない〕」
ゲギド「(ズゴゴの胸を指で突き)〔お前よりオレの方が、面白い仕掛けができる〕」
ズゴゴ、鼻で笑う。
ズガギ「特別なリントを一人殺せば、事は足りる」
ゲギド「トクベツ・ナ・リント?」
バルバ「やはり、東京、ということか…」
ズゴゴ、階段を下っていく。
ズゴゴ「コノ街ィ気ニ入リマシテン。モウヒト暴レサシテモライマッセー」
ズゴゴを無言で見送る3人。
エキスポタワーに反射する日光がまぶしい。
関東医大病院 2:32 p.m.
診察中の椿。
ポケベルが鳴る。
椿「(患者に)ちょっとすいません。(手もとの受話器を上げ、ダイヤル)ああ、椿です。ウン。外線?…え?あ、いや、31番につないでください。(患者に)じゃ、いつも通り薬出しときますんで。今日は、これで失礼。(席を立つ)」
× ×
別室。小走りに来て受話器をとる椿。
椿「いや、ご無沙汰してます。ええ、最近は生きた人間もみてるんですよ。ハハ…。え?アラスカ!?」
アラスカ・マッキンリー山麓 現地時間 8:32 p.m.
ホテルのロビーで受話器を握る桜子。
桜子「こちらで、見ていただきたいものと言うか、ちょっと、あるんですけど…無理…ですよね?」
関東医大病院
椿「あ、そりゃスキーなら私も自信があります…え?死体?ああ…九郎ヶ岳と同じ?…何か碑文が?…ああ…現地の医者は?…ああ…そうですねェ…しかし…恐らく現地の警察とか、何らかのオフィシャルな依頼がないと…んー。そりゃ行くだけなら何とか…わかりました!週末まで待っていただけますか。え?遅い?」
× ×
医局へ飛び込む椿。
先輩の医師がいる。
椿「すいません、田舎のお袋が倒れまして…」
医師「ん、ああ…」
椿「(荷物をまとめ始め)しばらく休みます。また、連絡します(退室しようとする)」
医師「…あれ…いつだっけ、お母さんの七回忌、って君休んだの」
椿「は!…あ、あれは生みの親で…実は…」
医師「外来、僕に代われって言うの?」
椿「い、いえ…(荷物を置く)」
アラスカ・マッキンリー山麓
ホテルの一室。
ノートパソコンに向かう桜子。
ディスプレイに並ぶリント文字。
桜子「『汝これに触るるなかれ。清きものは清く、汚れしものは汚れ…』。『太陽の蘇りし時、泉は流れ出で、塵の如く散らん』か…泉が…塵の如く散るって…一体…?間が全部すっ飛んでるし…(頭をかきむしり、デスクに突っ伏す)。五代くん…笑顔でいるのかな…」
中国・四川省上空 現地時間 1:48 p.m.
飛行するヘリ。
ヘリ内の五代。
‘おまもり’を握り締めている。